二〇一二年 観た映画ベスト10 |
・ティム・バートン『フランケンウィニー』
・フランシス・フォード・コッポラ『Virginia/ヴァージニア』
・北野武『アウトレイジ・ビヨンド』
・鈴木太一『くそガキの告白』
・西谷弘『任侠ヘルパー』
・トーマス・アルフレッドソン『裏切りのサーカス』
・細田守『おおかみ子供の雨と雪』
・ギャレス・エヴァンス『ザ・レイド』+ジョン・ハイアムズ『ユニバーサルソルジャー 殺戮の黙示録』
・高橋洋『旧支配者のキャロル』
・ジョー・カーナハン『THE GREY 凍える太陽』
11本ですが、8はどっちか選べと言われても困るし、「秋の筋肉映画祭り」ということで記憶も混同しているので、一本の扱いで。
次点
・趣味的には入れたい
ニック・マーフィー『アウェイクニング』、中村亮介『ねらわれた学園』、伊勢谷友介『セイジ 陸の魚』
・上記の作品より上と言われても頷く。
クリント・イーストウッド『J・エドガー』、オリヴィエ・アサイアス『カルロス』、ニコラス・ウィンディング・レフン『ドライヴ』
普段は絶対につけないけど、これを作った奴だけは許せないワースト
・西冬彦『TOURNAMENT』
特集上映から名作を各特集から1本ずつ。だってそうしないとアルドリッチだらけになってしまう。
ロバート・アルドリッチ『合衆国最後の日』、ヴェルナー・ヘルツォーク『アギーレ 神の怒り』、ジョン・フランケンハイマ―『ブラックサンデー』、アラン・アーカッシュ『ロックンロールハイスクール』、相米慎二『お引っ越し』
今年感動した台詞ベスト3
・『ヴァージニア』の「NEVERMORE!!」
・『ザ・レイド』のマッドドッグ先生の「銃はファーストフードみたいなものだ。まるで興奮しないね」
・『任侠ヘルパー』のクライマックスの道路での香川照之の台詞。
以下、雑感(後半に『任侠ヘルパー』のネタバレあり)
「オマージュを捧げることが目的になってはならないんだ」と『フランケンウィニー』のインタビューでティム・バートンが語っていて、それが何かとても重要な至言のように感じました。「ホラー映画」というジャンルを語ったとき、2010年代はそれこそ「オマージュを捧げることが目的」である映画、ジャンルの再現とそれに対する奉仕を追求する映画が多く、実際前者が多く目につく傾向が強かった気がします。(今年でいえば『ウーマンインブラック』や『インキーパーズ』などがそれにあたるかな。『ウーマンインブラック』に関しては一言いえば、ジョン・カーペンターの『光る眼』を彷彿とさせるカメラ=幽霊の視線に操られる子供のシーンで幕を開けるのだから、そのカメラと「幽霊の視線」への演出をもう少し徹底すべきだったと思います。中盤以降そういった演出は人形の眼のショットなどに散見されるものの、Jホラーの小中理論に沿った演出に終始したことによって、結果としてラストの、幽霊の視線の悲哀が軽減されていたように自分には見えました。)
勿論それはそれで一つのあり方であると思う一方で、ティム・バートンの『フランケンウィニー』とフランシス・フォード・コッポラの『ヴァージニア』を観た後では、ジャンルの精巧な再現がかすんで見えてしまったのが、一観客としての率直な感想です。そういった意味で、ホラー映画の歴史を一つの映画の中で逆行してみせたジェームズ・ウォン『インシディアス』を年間ワーストに選んだタランティーノの、その西部劇がどのようになっているのかが、来年の最初の楽しみだったりします。(・・・北野武?ありゃ別格だよ。)
日本のJホラーを眺めていても、やはりむしろジャンルを瓦解させようとする傾向の作品のが印象的で、『くそガキの告白』と『旧支配者のキャロル』の二作品は、「単館映画館での戦い方」を含めて今後に残って欲しいという気持ちがあってベストに挙げました。ちなみに、新宿の映画館では上映後監督が菓子をばらまいたり、上映後監督が昼飯を誘ってきたり、スクリーンの中の二丁目のオカマが画面を飛び出して観客と写真撮影していたりと色々なイベントに遭遇して面食いましたが、そういった興業としての映画、を来年もちょこちょこ楽しんでいきたいな、と思っています。(そういった意味でのベストは、上映前にワインが振る舞われて、それを飲みながらヘルツォークのクラウス・キンスキーへの男子校的なノリの罵倒に笑いに笑った「陶酔!ヘルツォーク」の『キンスキー 我が最愛の敵』の上映でしょうか。)
一方で、厳しい部分もあるにはあって、例えば安里麻里が作家の持ち味をほとんど出し切った『リアル鬼ごっこ3』が低予算であることから全く評価されていないことに愕然とさせられたり、また逆にジャンルの精巧な再現にさえ至ってない作品がちらほらあったことも確かで。特に『ANOTHER』に関しては、もっと覚悟してアメリカンホラーの再現に挑むか、作家性に任せて恋愛映画としての側面を強めるか、どちらかに思いっきり舵を切るべきだったのではないかと。後、別に全部確認した訳じゃないから言ってはいけないんだろうけど、『レッドティアーズ』やら『ゾンビアス』やら観るに、何か日本のトラッシュムービーって『片腕マシンガール』の頃から随分後退してないか?井口昇は自分が評価されたのが何故なのかをはき違えていると思うよ。
後、今年はホントに自分がビデオ・シネコン中心の「本当の映画を知らない」世代なんだよなぁ、と節々に思った一年だったりしました。そんな自分の中で殊更印象的だったのが、テレビドラマの劇場版という「本当の映画」には絶対になれない企画であるという諦念を、ヤクザ映画のヒーローに憧れつつも本物にはなれない男に仮託しつつ、相変わらずの空間設計とメロドラマで、現代社会の問題とヒーローになれない男たちとを描き切った『任侠ヘルパー』でした。草薙剛演じるヤクザというよりチンピラの男が、決意して行う決定的な行動が二回、監視カメラやネットの映像といった、貧相なフレームに収められた形で映され、それ故に彼の行為の意味がほとんどの人には届かないことであろうことが暗示されつつも、それでもフレームを見る中の誰かには通じていて、観る人の心を変貌させることもあるはずだという願いにも似た逆説がクライマックスで描かれていて、その草薙と登場人物達の関係性にはそのまま、シネコンにかかる映画と観客の関係とが仮託されていやしないか、と思ってしまった。特に、草薙の行為をネット中継で観た香川照之演じる弁護士が道路で草なぎを這いながら助けに入り、ヤクザに対して吐く台詞、閉鎖感とどうしようもなさに満ちた世界に対峙して絶望を見た男が絞り出すように吐いた台詞に、どうしようもなく感動してしまった。
「戦うしかないんだ」
自分が観たものが映画として真っ当かどうかなんて分からない。もっといえば、多分、僕は映画なんて知らない。それでも、少なくとも、何かと「戦っている」ものを作品と呼びたいし、そういった「戦っている」作品だと自分が思い入れをもってスクリーンで観たものの観客を、これからも一人でも増やせる助けが出来たら、と考えています。一年間ありがとうございました。来年も多分更新ペースは変わりませんが、よろしくお願いします。
予告観て良さげだと思ってたのですがやっぱ『任侠ヘルパー』良かったんですね
この人の作品が最近の邦画の中でいつも「一番映画っぽい予告編」なのがなんか面白いなぁと
元々連ドラの世界では若干浮き気味の人だったので、
このまま本広克行に代わって映画でやりたい事やれる場所に立ってくれたらいいなと
お引っ越しなつい。。。これで相米の洗礼を受けました
あけましておめでとうございます。今年も宜しくお願いします。・・・まぁ、いつまでYAHOO映画にいるかは分からないのですが、お互いマイペースでやってきませう。
西谷弘、「三谷亡き後のフジテレビのリーサルウェポン」とか勝手に呼んでいたのですが、(三谷幸喜はまぁ・・・少なくとももう映画はいいでしょ)なんというか、テーマを含めて志の高さに感動し、共感しました。エンドロールの長回し(ホントに、ただあるものの運動をカメラも動かさずに画面に収めているだけなのですが、去年観た映画で一番のショットでした)を観ながら、これが映画じゃないなら何が映画なんだろう、って思ってしまって。本広は一度友人の家で『サイコパス』を流し見した時台詞回しに吐きそうになったので(;_:)、堤といっしょに早急に追放されて欲しいです。でもたまに『SPEC』面白い、とか言う人いるんですよね・・・。また映画化するんですよね・・・。
ちなみに今年の映画はじめはMXでやっていた『蛍火の杜へ』でした。幸先のいいスタート(;_:)・・・今年一年もいきましょう、お互いに。