今年のベスト
サム・ライミ『オズ はじまりの戦い』
新海誠『言の葉の庭』
須藤友徳、あおきえい『空の境界 未来福音』
平尾隆之『魔女っ子姉妹のヨヨとネネ』
フランク・カルフン『マニアック』
西谷弘『真夏の方程式』
高畑勲『かぐや姫の物語』
ジェームズ・ワン『死霊館』
デヴィッド・エアー『エンド・オブ・ウォッチ』
宮崎駿『風立ちぬ』
旧作
『ブルード 怒りのメタファー』
次点
『LA ギャングストーリー』、『脳男』、『貞子3D2』、『2ガンズ』、『エリジウム』
・ツイッターに挙げたのから変更。結局半数がアニメーションである。
・今年はほとんど映画を観ていない中、自分の好きなジャンルが豊作だったと思う。ベストには挙げてないものの、Jホラーは観た映画すべてが良作だった。その中で一番驚いたのが、『貞子3D2』で、ほとんどJホラーの総括と呼べる内容になっている。対して海外ホラーは、ディビットエリスが逝去した年である一方、アレクサンドル・アジャ組が他のPOVと一線を画する『マニアック』を送り出している。そしてジェームズ・ワンである。我こそがマスターオブホラーだと誇示せんばかりの『死霊館』は、Jホラーと旧来の心霊ホラー・ゴシックホラーとが融合した最先端として記憶されるべきだろうし、もはやジェームズ・ワンを21世紀のトビー・フーパーと呼んでも差し支えないだろう、と思う。(そのデビュー作には雲泥の差があるとはいえ)
・POV、つまるところホームビデオのような個人の視点と、それらを突き放した俯瞰視点との差異が社会に隔絶させた個人を描き出しているのが近年のハリウッド映画のテーマである。その点において、世評高い『クロニクル』よりむしろ『エリジウム』のが印象的だったと告白しておきたい。塚本晋也のように手ぶれのカメラで機械に浸食された身体を映し出しつつ、そこからマイケルベイのように誰の視点か分からないロングショットに切り替わる、その際の美しさにゾッとした。その遠景の中、人体は破壊され、絶望的な状況が映し出されることに、監督の強い怒りと、映画の文法など知ったことではないという告白が刻印されている。はっきり言って次作がどうなるかは全く予想できないし誰も評価しないだろうが、個人的にはその危うさ故に次回作が楽しみな監督の一人になった。
そして、『エンドオブウォッチ』はそのPOVの最良の成果の一つではないだろうか。ほとんどプライベート映像のように偽装された映像で描かれる、『ディアハンター』を彷彿とさせるダンスシーンやラストシーンの美しさたるや。POV映画において一歩抜きんでいたはずのJホラーが、その叙情性においてハリウッドに追い越されてしまった、と思ってしまった。
・アニメは、今年は歴史に残る一年ではないだろうか。ジブリの二大巨匠がその表現を更新し最高傑作を送り出してきたことは言うまでもなく、新海誠が自身の表現の成熟と深化を見せた『言の葉の庭』は『風立ちぬ』に匹敵するだろうし、物語のリアリティの欠如に目を瞑れば『サカサマのパテナ』の均整のとれた構図の美しさには目を見張るものがあるだろう。そして、見逃してはならないのがufotableの二作品である。社会とその希望から隔絶した若者達の物語を、『雨に唄えば』から『時計仕掛けのオレンジ』に連なる作品として、「sing in the rain」の引用と教科書的なイマジナリーラインの使用によって完結させた『空の境界 未来福音』は、その押井守作品の嫡子として、ジャパニメーションが追求したレイアウトシステムの最良の結実を見せていた。
その一方で、そのレイアウトシステムの担い手だった今敏の、その弟子である平尾隆之の『魔女っ子姉妹のヨヨとネネ』が、アニメーション本来の快楽と喜びをまさしく召還してみせるのだ。『空の境界 矛盾螺旋』でコピー世代の悲哀と希望を描き出した平尾監督が、3・11以後の『回路』というべき『ギョ』を経て描き出したのは、「親の不在」にさらされた生と死との感覚が希薄な子供たちのための、絶望から希望を見いだす物語である。ジブリー細田守といったジャパニメーションの系譜の総括というべき作品でありつつも、そのジブリにはない現代性をふまえ、時には欲望の表象(呪い)になりかねない魔法=アニメーションを肯定してみせるのだ。それが、実写映画に拘り続けた今敏にたいする餞であり決別の言葉であるような気がしたのは、決してヨヨの姿にパプリカが重なり合ったからだけではないだろう。
・今年はJホラー以外だとほとんど観ていない実写映画でも、どことなく対に感じる作品が多かったのが印象的でした。『リアル』と『真夏の方程式』、『脳男』と『藁の楯』など。
今年は、今まで書いたものが評価されることがあった一方、あまりちゃんとした文章を残せなかった。特に後半は挫折の連続だった。『風立ちぬ』の「10年」という言葉を胸に、色々去年の躊躇いを今年から絶つつもりでいようと思う。それではよいお年をー。