朝なのにホラーの話題。 |
ネットで伊藤潤二のレビューを漁って今に至るのだけれど、「恐怖の対象としての女性」というテーマで書いている人が誰もいない。彼の最高傑作とされている「首吊り気球」「うずまき」といった、不条理系の話だとその色がほとんど出ていないからか、そんなの当たり前として誰も話題にしていないかのどっちかなのでしょう。この作家にとって女性に対するトラウマはとても重要だと俺は感じているのだけど。
代表作である「死人の恋わずらい」が例としてあげるといいのだけど、この作品に出てくる四辻の美少年以外の化け物は、すべて女性の習性を過剰に表したものだ。その過剰な描写が漫画的で、普通ならブラックユーモア・ギャグとして捉えられるわけだが、(彼の漫画自体そう捉える向きが正しいとする評論家が多いらしい)なまじ彼の画力が高く執念を感じるほど細やか書き込みによってホラーとギャグ、どっちつかずの何ともいえない奇妙な彼の味になっている。(だから漫画じゃないと彼の作品が微妙で、映画が軒並み失敗しているのだろう、と映像化は長い夢と墓標の街というマニアックなのしか見てない俺が勝手に講釈を垂れる)
「死人の恋わずらい」だと意識的に女性に対する恐怖を誇大にしてみせているのだろうけど、もっと前の、押切とおるの沼の話の中にある、女子高生に罵られる押切などを見ていると伊藤潤二はホントに女性に強烈なトラウマを植え付けられたんじゃないかと勘ぐってしまう。(押切シリーズの最初、首幻想が背が小さいというトラウマの誇張であるからなおさら。潤二自身に二人の姉がいたところとかね。そもそもデビュー作「富江」がクラス全員で一人の女性を殺す、という発想から生まれた作品なんだから。なんか女性にうらみないとそんな発想生まれんってw)
彼の中で重要なテーマの一つだといえる「美醜」も初出は女性に対するものからだと俺は思っています。
今回紹介する「いじめっ子」は伊藤潤二のそういう側面が非常によく出た作品を集めている。
この巻で「首吊り気球」のような突拍子のない発想や「ご先祖様」に出てくるグロテクスな化け物などはほとんど出てこない。彼の作品の中では比較的地味で彼の代表作にはなりえないが、人間心理、特に女性のそれの怖さをうまく描いている子品が多数収録されている。
中でも表題作の「いじめっ子」と「記憶」のラストは逸脱していて、特に記憶のラストはまんま綺麗な女性の姿なのに、その振る舞いにゾっとするものを感じさせずにはいられない。「人間、悪なり」と強く訴えられるよりも人間の原罪を感じる、笑えない作品である。