中村義洋の凱旋 |
ジェネラル・ルージュの凱旋
前作『チームバチスタの栄光』は手術室の空間構成に才気が見られるものの、医療に横たわる問題に対する視点(犯人が犯行におよんだ背景)が脚本でばっさりと切り捨てられていたために消化不良だった。そもそも脚本家出身の中村監督が脚本を書いてない時点で「?」だった訳なのだけど、そういった前作の鬱憤をはらすかのように、今作では徹底した演出がなされている。
コメディ要素を交えつつ、軽妙な語り口でキャラクターと伏線を配置していく序盤を経て、今までの「仕掛け」が静かに連鎖反応を起こしていく中盤の審議会の場面に到り、大事故を契機としてクライマックスへと加速していく終盤に向かっていく。
序・破・急とまるで教科書のように緻密な脚本を作り上げておきながら、その脚本のすべてを「ヘリの到着」という映画的瞬間に賭けてしまう大胆さ。手挽きミルやプロペラの音などに見られる音に関してのセンスの良さ。(手挽きミルがヒント・回想の契機となると共に、手を塞ぐことが許されない救命救急センター長=飴と対比されているという演出の効率の良さ!)そして、堺雅人を筆頭として、その持ち味を如何なく発揮していく役者の力強さ!(個人的には前作ではただ安全牌として配置されていた野際陽子の、あの底知れない感じが巧く引き出されいるのが嬉しかった。)
細部が画面を引き締め(ジェネラルと田口が和解する時、誰も観てない場所で本音を出す白鳥が何をしているか?)ギャグにさえ意味がないものがなく(病院という「異国」に足を踏み入れる「ガリヴァー」白鳥という寓意をコメディとして見せる手腕を、ほとんど寓意を含むことだけで満足してしまう輩は見習ってほしい。そして審議会での病院側の白と白鳥の黒との鮮やかなコントラスト!)一切の無駄がない完成された社会派エンターテイメントに仕上がっている。
他の映画人たちがテレビ企画で実力を発揮できない中、多くのテレビ企画で悲惨な作品が生産されていく中、これだけの傑作を打ち出せる中村義洋は、これからの日本映画を引っ張っていくに違いない。「中村義洋の凱旋」と叫びたくなるのを抑えつつ、『フィッシュストーリー』に期待を膨らませている次第です。