悲しい幼稚園 |
オモチャを買ってくれるパパや抱っこしてくれるお姉ちゃん、そしてみーちゃんの頭を撫でてくれるお母さんがいるおうちの中とその周りの世界だけで遊んでいたみーちゃんにとって、初めての社会です。
みーちゃんはそこに行くのが楽しみで楽しみで仕方がありません。新しいともだち、ピカピカの制服、やってみたことないお遊戯・お勉強・・・
「はやくよーちえんはいりたいなー」と毎朝毎晩まだ見ないおともだちを夢見て期待を膨らましていました。
ある日、おかあさんが言いました。「みーちゃん、幼稚園を観に行きましょう」
願書を出しに幼稚園に行くのですが、みーちゃんはそんなことは露も知らず、お母さんに手を繋いでもらって
(よーちえんに行くんだ。楽しみだなー)
とわくわくしながらトコトコとゆっくり歩いていきます。
今の彼女の眼に映るものすべてが輝いて見えます。いつも通る道や近所の友達と遊んでいる公園、いつもお母さんとお買い物に行くスーパーなんかもキラキラと光っているようにみーちゃんには見えました。それだけ彼女は幼稚園を夢見ていました。お日様も真上から彼女を祝福しているようです。すべてが彼女のためにありました。
その後しばらく知らない道をお母さんに手を引かれながら進んでいくと幼稚園にたどり着きました。
(わぁー、幼稚園だー)
幼稚園はやっぱり夢の幼稚園でした。どこにでもあるような遊具も、あんまり大きくない建物も、化粧の濃い先生なんかも彼女の瞳には楽しいものとして写ります。
何か難しいことを先生と話しているお母さんはほっといて、彼女は色んなところを見てまわりながら一喜一喜しています。ふっと遊具のほうに目をやると砂山で同じ位の背をした女の子が砂をぺたぺたといじって、何かお山みたいなものを作っています。それを手伝ってあげようと女の子を方へ走っていこうとしました。その時
ばちーん
おかあさんぐらいの女の人が、女の子に向かって物凄い勢いで走ってきてその女の子をおもいっきり叩きました。そして
「何やっているの!はやく帰ってお勉強よ」
と怒鳴ってから、泣いている女の子を引きずって彼女の目の前をさっさと通り過ぎていきました。
彼女は最初何が起こっているのか理解できませんでした。さすがの彼女もこれは楽しいものに見えるわけがありません。何で?何で楽しいはずの幼稚園でこんなことが起こるの?いくら考えて見ても分かりません。みーちゃんは泣きそうな顔をして誰もいない砂場を眺めていました・・・。
彼女の人生は、まだ始まったばかりです。