そら |
下のほうから聞き慣れた声が自分の部屋に入ってくる。
一人ベットの上で身体を持て余している自分にはそれがやけに遠くのことのように聞こえた。
身体を少し起こして窓に目をやる。
優ちゃんが秋人といっしょに家を出て行く。いつものように二人並んで。
その光景が痛いくらい眩しすぎて、二人の姿が見えなくなる前に太陽の光が照らしていない空のほうに視界を移す。
小説なら「雲ひとつない青空」とでも書かれそうな、つまらない青空が視界を覆っている。
僕はぼんやりと空を見上げて、今にも消えてしまいそうな、煙のような雲が風に少しづつ流されていくのを目で追う。
なにか嫌なことがあった時はいつもこんな風に空を眺める癖がある。父親に叱られた時、大切なものをなくした時、友達と遊んでいる中でふっとなんだかつまんなくなった時・・・。
多分、どっか違うとこに行きたい、今自分の足と繋がっている世界から逃げ出したい、という無意識の願望からそんな風にしているんだろう。
いや、違うな。そんな風に期待に近いものを抱いているわけじゃない。そらは世界をぐるりと囲んでいる檻で、多分俺はそれを見てここから逃げられないことを再確認しているんだ。その先に行くことを夢見ながら。
「彼女のこと、何も知らない癖に・・・」
言いたい相手はわかっている、けどやり場のない言葉を部屋の壁に叩き付けた。それは虚しく自分に返ってくるだけ。
知らない癖に、秋人と親父が話していた時、彼女の笑顔が曇って、哀しそうにそれを見ていたことを。
知らない癖に、まだ3人が中学生の頃、秋人と何処の誰かが付き合っているなんて噂がたった時の、根も葉もない噂なのに何度も何度も俺にそのことを聞いていた彼女の不安そうな顔を。
「どうしてなんだか」
どうして俺は二人と同じ年に生まれなかったのか?自分でも笑ってしまうぐらいアホな疑問だと思っているが、こういうことはどうしようもなく理不尽なことも確かだ。
見上げたそらはあいからわず真っ青。そんなでも天気予報によると夕立が降るらしいが。
そういえば朝、秋人に天気予報のこと言うの忘れてた。二人共傘ちゃんと持ってきているのかな。秋人はぶっきらぼうだし、優ちゃんそそっかしいし、両方持っていってないような気がするけど大丈夫かな?
片思いの相手とその恋人に対して、そんな心配をしてしまう自分がなんだかおかしくて、一人部屋の中でケラケラ笑った。
そうだ、いつも俺はあの二人に対して兄貴面していた。少し遠くで二人のことを眺めていて、大人ぶって彼らの領域の中に入ろうとはしていなかった。
そりゃそうさ、俺にとって二人が今過ごしている世界はちょっと前のことで、もう俺はその世界にいることはできないのだから。入ろうとしなかったんじゃない、入れなかったんだよ。
「♪~♪~」
ポケットの中から単調なメロディが流れる。携帯を手に取るとメール受信の信号。誰から?
題名 サークルの飲み会について 野村早苗
大学のサークルの飲み会をいつどこでやるか、どんくらい金がかかるか。などの連絡のメール。最後に「店に予約するので来れるかどうか連絡してください~♪」と書かれている。
そうだな、俺には俺が生活している世界があるんだった。
行けることを伝えるメールをすぐに打つ。絵文字になんかを付けてみたりしたメールを、携帯は事務的に送信する。
多分俺はこうやって自分の世界を流れていくんだ。大学に行って、どこかに勤めて・・・。そしてその間ずっと、二人が離れるまでずっと、俺は二人に兄貴として振舞うんだ。優ちゃんの前で優しいお兄さんを顔を作るんだ、その裏側でドロドロとした情念を抱きながら。
俺が優ちゃんの隣にいられる可能性はほとんどないことぐらい分かってる。俺は今の3人の関係が壊れることが怖くて想いを打ち明けることなんてできないし、そもそも秋人がいなければ彼女と縁なんてないのだから。だからせめて、二人のことを少し遠くで見守らせて欲しい。優ちゃんが幸せそうに自分の弟と手をつないでいる姿を見ていたい。それは退屈で物足りないかもしれないけど、二人と平和な関係でいられるのだから。
なぁ、それぐらいなら叶えてくれるだろ?
願いを込めて見上げたそらの色は、ムカつくぐらいさっきと同じ色をしていた。
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今書いている恋愛小説の一部。多分この部分は使わないな、というテキトーな編集によってこのサイトに載せてみたりしてみたり。
ここだけ見るとタッチみたいな3角関係の話のように見えるが、ただの思いつきと筆が止まったときに苦し紛れで三角関係にしただけで、本編は基本的にふたりしかでてこない(予定)。つーか三角関係をやるのをやめたからここに没として載せているのですが。
この恋愛小説、今書いている小説で一番完成に近いと共に中絶に近い・・・。ただでさえサボり+遅筆で書くのが遅いのに3つぐらい同時進行で書いているから何も完成しないという・・・。
プロを目指して賞に応募する、趣味としてこういうとこで載せて読んでもらう。どちらにしたって完成しないとお話にならないわけで。ひとつだけ完成までこぎつけた短編があるけどあれ奇形児みたいなもんで人に見せるもんじゃないしな。それが処女作というのも前途多難だ・・・。
とにかく頑張らなきゃ、自分のやりたいことぐらいは。